長居療法院なごみ

神の贈り物 (腰椎ヘルニア)

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心に残った患者様との思い出

神の贈り物 (腰椎ヘルニア)

四月に入ったばかりの頃、桜が満開。挨拶の言葉が、『桜がきれいですね。』と思わず出てくる。初春のうららかな日々が続くある日、ある女性からの電話。
「うちの主人が腰が痛くて倒れてしまいました。慢性のヘルニアがひどくなったようです。無痛ゆらし療法で治療してもらいたいのですが、今から連れて行きますが診てくれますか。」
いつも保険にて施術しているなじみの奥様でした。
「すぐに来て下さい。」と返答する。
ご主人、奥様に肩を抱かれてやっとの思いで来院されました。
もともとヘルニアを患っていて、時々、激痛が走っていたそうですが、今回は特にひどい。奥様の介添えなしでは歩くどころか、起き上がる事も出来ない状況でした。
来院時、病院で撮影したレントゲンとMRIの画像を持参してくれました。
スタッフの中から、
「ヘルニアの悪化。あまりにもひどい状態。病院に送り返した方が良い。」との声。
「無痛ゆらし療法で施術してみますか。」と本人と奥様に聞いてみる。
「だから、わざわざ来たのです。責任は問いませんからお願いします。藁にもすがる思いです。」
ご夫妻の了解を取って無痛ゆらし療法での施術が始まりました。
そのご主人、それから週二回通院してくれて施術を受けてくれました。
施術を繰り返していると親しみも湧いてくる。いろいろな世間話をするようになります。
特に、ご自慢はお孫さんの話。お孫さんの話になると、満開の桜のように顔がピンク色に染まり、口元に笑みが溢れます。
嫁いだ娘さんの子供さんで、今は神奈川の横浜に住んでいる。高校二年生で部活でサッカーをしている。まだ、レギュラーでないので、三年生ではレギュラーを取りたいと練習に励んでいる。
九月に横浜に行く予定がある。誕生日が一緒なので、お互いに誕生日のプレゼントの交換をしようと約束しているとの事。孫に会えるのを楽しみにしている。それまでに何とか完治させてくれないかとの要望。この状態では新幹線に乗るどころか、ベッドから起き上がるのも無理と嘆きます。
三月の春休みにお孫さん大阪へ遊びに来たそうです。一緒に大阪見物をしようと張り切っていたのに、腰が痛くて動けない。仕方なく家で横になりながら、部活のサッカーの話を聞いていた。
お孫さん中々サッカーがうまくならなくて悩んでいると零していたので、
「おじいちゃんはな高校時代はバスケットボールの選手だった。全国大会こそ行けなかったが、大阪府の大会ではベスト八までいった。うまかったんだぞ。そのおじいちゃんの血を引いているのだ、絶対にレギュラーになれるから頑張れ。」
と励ましたそうです。
実際、このご主人、元は中学校の教師。技術家庭を教えながら、バスケット部の顧問をしていた。奥様の話では、若い頃は大変なスポーツマンでかっこ良かった。奥様も教師、年齢が一〇歳ぐらい離れており、まだ教師をされている。職場結婚だそうです。
ご主人曰く。
「俺は定年退職して無職。今は嫁に食わしてもらっている。だから、今は嫁に頭が上がらない。」と笑います。
「そんな事はないでしょう。公務員だから、年金たくさんもらっているでしょう。」と返答する。
「年金なんて生活費でどこかへ消えてしまう。」
口とは裏腹に、生活には十分余裕があるように見えます。
「腰が良くなったら、家でぶらぶらしていても仕方がないので、孫のサッカーの応援に行く。遠征にも付いて行く。バスケ部の監督をしていたから、アドバイスの仕方もわかっている。」
素晴らしい抱負です。これは何としても手術なしで痛みを取ってあげねばと気合が入りました。
それから週二回、九月の初旬まで通院してくれました。初日と二日目までは奥様と一緒に来院されましたが、三日目から一人でも腰をさすりながら来れるようになりました。その一ヶ月後には、普通に歩いて来れるまで回復。
「多少の痛みは残るが、階段の昇り降りも苦痛で無くなった。すごいね、無痛ゆらし療法は?」
安堵する言葉が和ませます。ほっとする瞬間。施術で順調に痛みが和らいでいるのを実感するのは施術者としての嬉しいシチュエーション。
七月に入ると、自転車に乗ってやって来ました。いつも朝の九時三〇分に施術の予約をしてましたので、七時に奥さんを自転車の後ろに乗せて家を出るそうです。それから、奥さんを勤務先の中学校まで送り、その後は、大和川の川べりをぶらぶらしている。朝方、大和川の魚を求めて、かもめやさちといった海鳥たちが群れをなして集まってくるので、バードウォッチングには最高。朝の空気はさわやかだし、すがすがしい気分を過ごせる事が出来る。治療院に来る日はいつもこれが日課との事です。
「朝の大和川べりをサイクリングするのは気持ちが良い。いろいろな鳥を観賞出来るし、先生も日曜日など休みの日にサイクリングしてみたら。」と勧めてくれました。
八月の終わりの頃には、ヘルニアによる腰の痛みはほとんど完治していました。
「お陰様で新幹線には乗れそうです。約束通り横浜の孫の所へ行けます。ありがとうございました。」嬉しそうに話されます。
「それでお土産にスパイクを買いました。足のサイズは知ってました。以前にも買ってやった事がありましたので…。」
「きっと、お孫さん喜びますよ。」スパイク!サッカー少年にとっては最高の贈り物。
「孫は何をくれるかな。」と思いを描く。
それから、半月ぐらい来院されなかったのですが、九月の中旬過ぎに施術の予約の電話がありました。まだ、残暑が残るものの、秋の日差しが感じられるすがすがしい日でした。
たぶん、横浜に行って帰って来たのでしょう。ただ、施術の予約でしたのでまた、腰の痛みが再発したのかと心配でもありました。
ご主人ニコニコ笑顔を携えての来院。
「無事に孫と楽しく過ごしてきたよ。無地に腰に痛みも無くね。ただ、長旅の後なので、再発が心配。もう一度診てもらおうとやって来た。」
「良かったですね。お孫さんお土産喜んだでしょう。」
「ところが、孫、サッカーやめてしまったんだよ。」と意外な返事。
「やめちゃった?」思わず聞き返す。
「レギュラー取れそうもないので退部したらしい。受験に目標を切り替えたそうだ。」
「まだ、二年生なのに、もったいない。」
「言ったんだよ。来年の夏まで頑張っても良かったのではないかってね。でも、サッカーの自分の実力がわかったらしい。」
「そういう考え方もありますね。でも、それではお土産のスパイクは?」
「無駄になったか。もう履く事はない。」ご主人苦笑い。
「それはがっかり。」
「それより、孫が骨盤ベルトを買ってくれていたんだ。おじいちゃんこのまえの大阪でヘルニアで動けなかったので心配していたようだ。」
その言葉に、思わず施術中の手を止めて微笑み返し。
「でも、腰の痛みは完治している。」
「そうなんだよ。びっくりしていたよ。あの時はまともに動けなかったのにとね。動けなければ横浜に来れるかと言ってやったよ。」
「骨盤ベルト!もう必要ない。」
「そうなんだよ。だから、孫の贈り物も必要ない。」
「じゃあ、両方の贈り物は全く無駄になってしまったんだ。」
「そうなっちゃったね。」
驚き!まるでアメリカの作家、オー・ヘンリーの小説を読んでいるみたいなストーリー。
でも、良かった。孫のサッカーの試合には応援に行けなくなってしまったけれど、腰のヘルニアは完治した。きっと、再来年の春は志望校の国立大学に合格したお孫さんの付き添いで、入学式に東京に行っているのでは…。
お互いの贈り物は無駄になってしまったけれど、神様が素晴らしい贈り物をしてくれました。

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